今回は、札幌で現役美容師として活躍する小鷹裕也さんにインタビューしました。
小鷹さんはご自身でサロンを経営、スタッフを育成しながら現役美容師として現場に立ち、お客様の髪に関する悩みを高い技術で解決し続ける、いわばカリスマ!これまで数々の賞を受けておられ、講師としても活躍されています。
そんな小鷹さんに、美容師を目指すにあたって気になるアレコレを、ご自身の経験を踏まえてお話しいただきました。
美容師という仕事に興味をお持ちの方は、ぜひ参考になさってください。
美容室 MEIKA hair&beauty
小鷹 裕也さん
■プロフィール
- 札幌ビューティメイク専門学校卒業
- 2004年に渡英、ロンドンヴィダルサスーンアドバンスアカデミーに入学
- 2006年、美容室アイウィルの取締役に就任
- 2013年、独立して株式会社ニューオーダーを設立、代表取締役に就任
- 2013年10月、札幌にて「MEIKA hair&beauty」をオープン。
ショートカット、デザインカラーを得意とする「モード提案型サロン」として多くの顧客の支持を集める。 - 2015年、サロンを移転・拡大。
~受賞歴~
SAPPORO HAIR DRESSING AWARDSグランプリ、ベストカラー賞
SAPPORO HAIR DRESSING AWARDS 準優勝
トップヘアモードコンテスト モード大賞
VIDAL SASSOONコンテスト 入賞
その他優勝2回
サロンスタッフもコンテスト優勝者多数
目次
美容師を目指したきっかけは何ですか?
小鷹さん:中学までは勉強もスポーツもできるほうで、学校の成績もトップクラスでした。
高校は進学校に進みましたが、自分よりもできる人がたくさんいて、自信を持てる環境にならなかったんです。
そんななか、新たに始めたのがバンド活動。
いろいろなジャンルのバンドを組んで、着る服や髪型を変えるなど、ステージでの演出も楽しんでいました。
その頃から、自分の髪やバンド仲間の髪をいじったりしていましたね。
進路を考えはじめたときに候補にあがったのは、音楽関係・ファッション・ヘアメイク。
そんなとき、たまたま参加した美容学校の就職説明会で、説明されていた先生に「君、ルックスいいし、身長も高いし、美容師に向いているよ」と言われたんです。
人から評価されることもあまりなかったので、認めてもらえたのが嬉しくてその気になり(笑)、ヘアメイクの道に進むことに。
好きなことは徹底してやりたいタイプなので、
せっかく学校に行くなら「朝から晩までガッチリやらせてもらえる学校がいい」と考え、全寮制・1年制(当時)の美容学校に進みました。
美容師の専門学校選びのコツは?
小鷹さん:どこの学校も、国家資格である美容免許を取るための勉強は統一されています。
そのなかでも、「どういう経験を積ませるか」という点に学校の特色が表れます。
例えば、基本的な挨拶やマナーなどを徹底的に勉強するところもあれば、美容師の楽しさを伝えるためにと、ヘアショーや撮影などのイベント系の学習に力を入れているところもあります。
それぞれよさはありますが、大事なのは自分で足を運んで自分で判断すること。
人から聞く情報には、話す人の感情が入ってしまっていますから。
就職先の美容室はどのように選びましたか?
小鷹さん:国家資格の取得自体は、学校に通って普通に勉強していれば難しくありません。
ですが、就職先選びは正直難しかったです。
当時から美容室は数が多く、どこが自分に合っているのかわかりませんでした。
友達の情報をたよりに東京の有名店の就職試験を受けたりもしましたがうまくいかず、焦りもあって、自分が通っていた美容学校の関係サロンに就職しました。
最初に就職した美容室を1ヵ月半で退職した理由は?
小鷹さん:大変だったというよりは、イメージと違っていたんです。
就職した美容室は、制服で、きちんとした雰囲気。
良い美容室ではありましたが、自分が思い描いていたのは、従業員も私服でオシャレを楽しめるような、遊びのある美容室。
目指す美容師像とできるだけ一致しているところを、はじめから探せばよかったのですけれど、当時はそんな時間も視野もありませんでした。
そしてその美容室を1ヵ月半で退職して次の就職先を探していたときに、ヘアショーを実施しているお店が札幌にあると聞いて、その映像を友達に見せてもらったんです。
すると、ステージでヘアショーが開催されているその雰囲気が、ただただかっこいい。
その美容室に飛び込み、給料や休日なども確認もせずに「ここで働きたい」と話をさせてもらいました。
採用面接というよりは、オーディションみたいな感覚でしたね。
そしてその日のうちに「やってみるかい」と言っていただき、そのお店で働きはじめました。
就職先選びで大切なことは?
小鷹さん:今は研修制度でサロンに入るなど、美容学生のうちからいろいろな美容室を見る機会が増えています。
ですから、実際に足を運び、サロンの雰囲気や顧客の年齢層、ファッション、目標となる存在がいるかなど、自分自身で見極めたうえで就職先を選ぶことが大切です。
働きたいと思うサロンが社員を募集していなかったとしても、「ここで頑張りたい」という意欲があるのならば、飛び込んでみるのもおすすめです。
下積み時代は大変でしたか?
小鷹さん:アシスタント時代はめちゃくちゃ忙しくて、トイレにも行けず膀胱炎になりかけたこともあるほどでした。
体力的にはきつかっただろうと思いますが、「だから辞めたい」という心理にはなりませんでした。
そのときは働きたいと思っていたし、職場にはおもしろい先輩もいて、仕事は楽しかったです。
それに何より、早く先輩たちのようになりたかったから。「やればやるほどうまくなる」と考えながら、毎日仕事に励んでいました。
私のアシスタント歴は3年くらいでした。かつては「アシスタントを5年くらい務める」という話も多かったですが、今は2~3年、早ければ1年でスタイリストデビューというところも多いです。
以前は深夜まで練習することも当たり前でした。
今は長時間残業して練習するよりも、営業時間中に実際に接客させ、修復可能な部分からチャレンジするなどして教育するケースが増えていますね。
美容師は体力的にきついと聞きますが?
小鷹さん:肉体労働というわけではないけれど、それなりに体力は使います。
でも今は、美容師も座りながらカットすることもできるし、シャンプー台も身体に負担がかからないように改善されているので、昔のように腰を痛めるようなことは減っています。
美容師のトラブルとしては腱鞘炎や手荒れもよくある話でしたが、それも過去のこと。
ハサミは手に負担をかけずに使えるものばかりですし、オーダーメイドで持ち手を個人の手に合わせて作れるハサミもあります。
また今は、お客様の髪のことを考えて、使用するシャンプーやパーマ剤、カラーリング剤にこだわっているサロンは増えていますね。
もちろん当サロンもそうです。
肌と髪の毛は同じようなものなので、「お客様の髪に負担をかけない美容商材」=「手荒れしにくい美容商材」といえます。
それでも手荒れする美容師は多少いますが。
昔よりはだいぶよくなっていますよ。
美容師を辞めてしまう人と続ける人の分岐点は?
小鷹さん:美容師が辞めるタイミングには傾向がありますね。
まずは「入社1年以内」。
選んだお店が理想と違っていたという理由で辞めてしまうケースは多いです。
当サロンはその点をクリアするために、美容学校のイベントに参加したり、ホームページをしっかり作るなどの工夫をして、お店のことを事前に理解してもらえるようにしています。
学生は就職前に、サロンの事を知る為に、実際に髪を切りに行きスタッフさんとコミュニケーションを取ってみるのもオススメですね。
そこで人となりを知ったり、雰囲気を体感する事が、理想の職場かどうかの判断材料になり得ます。
次のタイミングが、「アシスタントからスタイリストになる時期」。
スタイリストとしてデビューするということは、お店の看板を背負って立つということでもあります。
この時期の先輩達の厳しいアドバイスは、お客さんが言えない事を代弁している事も多いんです。
そこで「自分は向いていない」と捉えるのではなく、反省して改善していけるかどうかがポイントです。
その結果、辞めたくなることが多いというわけです。
お客様がなかなかつかないということも、一つの壁になってきます。
ただ、その点については、無料で来てもらえるモデルさんや知り合いを呼んで練習する、広告をうまく使うといった方法で、新規の方にどんどん来ていただける環境をつくることでクリアできますから、昔よりは苦戦しないと思います。
SNSでの集客する方法などもあり、若い子たちにもチャンスがあります。
今はサロンの形態もさまざま。
会社化しているところも多く、半休がとれたり、一時的にパートになったり、選べるケースも多いです。
キャリアアップして教育側に回る事も可能ですし、いろいろな環境が用意されているので、美容師の仕事を長く続けやすい業界になってきていると思います。
そのためには、「技術がある」というのは大前提ですが。
美容師の仕事の一番のやりがいは何ですか?
小鷹さん:自分の満足とお客様の満足が一致することが、一番のやりがいです。
自分自身では最高と思う仕事ができたとしても、お客様に喜んでいただけないときもあります。
お互いの気持ちが一致して、いい時間を過ごせたとき、仕上がりに喜んでいただけたとき、お客様が感動してくださったときに、やりがいを感じます。
髪質や顔の形に関するコンプレックス、老化していくコンプレックスなどは、誰にでもあります。そのなかでも、
日本人は、コンプレックスが多い人種ですよね。
ファッションは西洋人のものですが、素材は日本、アジアの素材なので。
お客様が今まで解決できなかった部分を、美容師の技術やアドバイスによって一つでも解決できたとき、「今まで変わらなかった部分がよくなった」「したことのない髪型だったけど気に入った」と、お客様の気持ちが大きく動きます。
そういう施術をし、お客様に感動していただける瞬間を生み出すことができる、美容師の醍醐味だと思います。
美容師に向いている人はどんな人だと思いますか?
小鷹さん:向き不向きというよりは、好きか嫌いかだと思います。
美容が好きなのであれば美容師になってみるべきだと思うし、できると思います。
「好き」の対象も美容に限らず、自分で表現するのが好き、お客様に表現していただくのが好き、私服でオシャレして働ける環境が好き、堅苦しくないフランクな人間関係が好きなど、いろいろな「好き」が美容師の仕事に当てはまると思います。
コミュニケーション能力はあるに越したことはありませんが、それよりも、相手の言葉の背景を想像して理解する能力が大事かもしれません。
美容師は、対人の仕事。
他人に対して興味をもち、「この人に貢献しよう」「この人の役に立とう」と思えば、そういう想像は事前と働いてくるもの。
そういうことは大事なこととして、お店のスタッフに伝えています。
給与や休日など、美容師の労働環境は?
小鷹さん:辞めてしまう人も多い業界であるのは事実ですが、話を聞くと「給料が低い」という理由よりも「先輩が厳しい」「理想と違った」といった理由のほうが多いです。
美容業界は2年で学校を卒業し、その2年後にはほとんどの人がスタイリストに近いところになります。
その時点の給与を同年代のそれと比較すると、4年制大学卒の会社員の方の初任給とそんなに変わらないと思います。
上を見れば、某全国チェーンの会社の代表は年収3億。
経営側にまわって、プロデュースする方ではありますが。
美容師として現場に立っている人でも、東京では月商1,200万円稼いでいる美容師もいます。
その30%~40%が給料と考えると、その人自身の手取り収入としては月300万から400万円というところでしょう。
そんなにすごい人は一握りですけどね(笑)。
一般的なスタイリストだと、低い人だと25万くらいからで、100万から200万クラスの売上の人も結構います。
50万から60万の人も多いんじゃないですかね。
やったら稼げるというのもあるし、会社として、将来的に売り上げが上がっていくサロンもあるので、その辺はしっかり調べた方が良いですよ。
個人でサロンを経営している場合、売り上げから経費などの支出も多いので、サロンとしての売り上げと個人としての収入額はかなり異なります。
インターネットで「美容師の平均年収」を見ることがありますが、この業界ほど「実際」と「平均」が違う業界はないのではないかというくらいです。
法人化するサロンも増えていて、そういうところでは会社組織のようにステップアップできる環境が整っていたり、社会保険などの制度もしっかりしています。
休日については、週休2日、夏休み・冬休みあり、有給取得可能というサロンも増えてきています。
ただ、経営者としては、そうした雇用環境を整備するのにいろいろな負担があるのが実状ですが、だからといって顧客サービスの品質は落とせません。
ライバルもたくさんいるなかで、苦労はあるというのが正直なところです。
美容師という仕事の将来性をどのようにお考えですか?
小鷹さん:小さな個人サロンが増えている印象はありますが、美容師の人数が増えているかというとそうでもない。
個人で美容師の仕事をしている人たちもいるし、私たちのようにチームでやっている人もいます。
働き方や将来性も多様になっている感じはありますね。
それが「手に職」といわれる仕事のよさでもあります。
技術があれば、身を置く環境を選択できます。
海外に行く人もいるし、自宅で美容師の仕事をしている人もいます。
死ぬまで美容師として働く人もいます。
美容師もお客様も一緒に年をとっていくなかで、ずっと通ってくださるお客様は必ずいますから。
産休明けの女性が復職できる環境も増えてきていますし、50歳・60歳と年を重ねれば運営側にまわるという選択肢も。
今も昔も、生涯やり続けられる仕事であることに変わりはありません。
今後のサロンのビジョンは?
小鷹さん:サロンブランドとしては、「美容に対して熱心で、お客様に対して熱心なプロ集団」を確立していきたいです。
そうして、メイドインジャパンのブランドとして、海外にも影響を与えられるような存在になれたら、スタッフもワクワクすると思います。
そういう意味では、札幌市内やほかの地域への展開も考えていきたいですね。
それから、スタッフが自分自身のキャリアプランを構築していけるような労働環境づくりや、スタッフが生涯働けるようなサロンづくりにも、力を入れていきたいと思っています。
美容師を目指している人へアドバイス
小鷹さん:美容師に限らず、どんな業界を目指すにあたっても、夢をもって努力することが大事ではないでしょうか。
自分が特定の分野に夢をもてること、ビジョンをもてることというのは、生きていてそんなにたくさんあるものではありません。
その業界にワクワクするものを感じているのなら、続けていれば必ずいいことがあると思います。
美容に興味のある方は、ぜひ美容業界にチャレンジしてみてください。
小鷹裕也さんのインタビューを終えて
美容師は、きらびやかなイメージがある一方で、給料が低い、仕事がきついなど、ネガティブなイメージがあったのも事実です。
しかし、そんな大変さはひと昔前の話だということが、小鷹さんのお話を聞いてわかりました。
自分のパフォーマンスが、目の前のお客様の喜びや感動にダイレクトに結びつく美容師の仕事。
その分緊張感もありますが、やりがいもひとしおでしょう。
働きはじめてから「思い描いていた美容師と違った……」ということにならないようにするためには、自分のビジョンをしっかりともち、職場環境がそれに合致するかどうかを自分の目で確かめて選択することが大切です。